一般社団法人 日本フットケア・足病医学会

理事長挨拶

日本フットケア・足病医学会理事長就任
所信表明(Inaugural address)

 此度、日本フットケア・足病医学会の理事長を拝命いたしました
神戸大学大学院医学研究科形成外科学の寺師浩人と申します。

わたしは、1986年に大分医科大学(現大分大学)医学部を卒業し、形成外科医を目指し、同校の皮膚科に入局いたしました。当時はまだ全国的にも形成外科学教室は少なく、母校皮膚科内に形成外科医が勤務しており、皮膚科形成外科診療班という形態をとっていました。幸いにも皮膚腫瘍(多くの皮膚癌を含む)、全身熱傷、皮膚潰瘍を診察する機会に恵まれ、当初から「創傷治癒」に興味を抱き、その後基礎的にも臨床的にも「創傷治癒学」を生業にしてまいりました。2001年に神戸大学に転勤した頃から、糖尿病性足潰瘍や重症下肢虚血を診察する機会に恵まれ、多くの同疾患による潰瘍・壊疽を治療することになりました。自身の「創傷治癒学」を基盤に、さらに深化させることができたのもこれら下肢慢性創傷患者と接したお陰です。(旧)日本フットケア学会では、2005年から理事・評議員を務め、2008年からは広報委員長として常任理事を務めました。2016年に任期満了で理事を辞した後も一評議員として学会活動を常時行ってまいりました。また、同年2月6-7日には第14回日本フットケア学会(於:神戸市)を主催させていただきました。そして、(旧)日本下肢救済・足病学会では、設立当初の2009年から法人合併までの間、理事として編集委員長(2009年~2012年)と認定師委員長(2011年~2019年)を務め、2014年からは関西地方会代表世話人として2015年に第1回日本下肢救済・足病学会関西地方会会長を務め、現在も代表世話人として活動しております。また、2019年6月28‐29日には最後の学術集会会長として第11回日本下肢救済・足病学会(於:神戸市)を主催させていただきました。その間、法人合併の準備委員として本年7月1日の日本フットケア・足病医学会設立に尽力してまいりました。

また、その間の下肢病変に関する業績として、2011年に「糖尿病性足潰瘍の神戸分類」を提唱し、治療方針の決定に役立つツールとして現在我が国で広く受け入れていただいております。また、2005年から現在までの15年間における下肢病変に関わる論文業績は、著書97編、総説77編、原著92編です。

この度、理事長職拝命に応じて、下記のようなプロジェクトを計画し推進してまいりたいと存じます。その骨子は、PODIATRY(足病学)の文字をそれぞれ頭文字にして、
PODIATRY Projectと呼び、所信表明(Inaugural address)とさせていただきます。

PODIATRY Project

  • P:Podiatric Medicine
  • O:Orthotist and Orthopedic shoes
  • D:Diabetic Foot
  • I: (Health) Insurance
  • A:Ambulatory and Amputation Zero
  • T:Translational Research
  • R:Rehabilitation for Gait
  • Y:Foot care and Footwear for the Yellows

それぞれ以下に説明を加えます。

1)Podiatric Medicine(足病医学):日本版足病医学を学会主導で確立する。
 周知のように西洋には医学、歯学と同列で足病医学があり、東洋には医学と歯学のみで足病医学が歴史的にも存在しません。わたしたちが抱えている足病疾患は医学のみの分野ですが、そもそも東洋には医学の中で足病医学が存在していないことから、その診断学と治療学が進んでいません。今後、西洋のように医学部、歯学部、工学部、経済学部、、、のように東洋において一学部として足病学部が文部科学省の元で設立されることはありませんので、学会主導で日本版足病医学を確立する必要があります。現在、我が国では、新しい専門医機構の元、新しい専門医制度が確立したばかりです。その専門医取得後にそれぞれ可能な分野において、基本診療科学会のサブスペシャルティ領域専門医としての足病医を置くことを提案したいと思います。その主導的役割を日本フットケア・足病医学会が担うことです。
2)Orthotist and Orthopedic shoes(装具士と整形靴):下肢・足部変形や足潰瘍に特化した義肢装具士や整形靴専門家を育成する。
 義肢装具士の主たる仕事は、義肢(Prosthesis:義手、義指、義足)と装具(Orthosis:靴型装具を含む補助器具)の作製&装着ですが、下肢・足部変形や足潰瘍に積極的に参加している義肢装具士は少ないと考えています。国家資格の受験が可能な10学校におけるカリキュラムにも同学問が十分とは言えず、国家資格取得後に民間企業に就職する人材が多く特化した人材確保が困難な状況です。これら育成校(卒前教育)や義肢装具士協会(卒後教育)にも積極的に働きかけ、下肢・足部変形や足潰瘍にも十分に対応可能な人材確保に協力したいと考えています。また、整形靴専門家育成機関は我が国では1校のみで、整形靴専門家が下肢・足部変形や足潰瘍を持つ患者に対して靴型装具を作製できる現場が少ないことも指摘されています。本来、整形靴とは、一人一人の足の状態・歩行状態などを整形外科的に分析し、その方にとって最善で快適な歩行状態を導くためのマイスターにより調整された靴のことです。発祥地であるドイツの整形靴マイスターが有名ですが、我が国では、職業そのものが存在していないため、義肢装具士がそれを補っている状況にあります。普通の靴職人とは全く別の課程で、靴制作の技術に加え解剖学や生理学、病理学などを身につけた整形靴専門家に本学会へ参加を促し協力体制を整えていきたいと思います。我が国には、日本整形靴技術協会や日本靴医学会があり、それぞれの学術集会を毎年開催していますので、同協会や同学会と学問的にも協力的体制を確立していきたい所存です。
3)Diabetic Foot(糖尿病足):糖尿病足や糖尿病性足病変の国民への啓蒙を行う。
 日本フットケア学会と日本下肢救済・足病学会の活動でDiabetic Foot(糖尿病足)という言葉は普及してきましたが、実際に潰瘍が発症し外来を受診される患者が後を絶たない状況がなお続いています。糖尿病の三大合併症である末梢神経障害網膜症腎障害に関して、後者二障害に対しては、それぞれ眼科医、腎臓内科医(その後は透析医)へと対応がわかりやすいのですが、最も罹患率の高い末梢神経障害に対しては対応ができていない状況です。現在、我が国では糖尿病が強く疑われる患者数は約1,000万人でその半数が合併しているとすれば、糖尿病性末梢神経障害罹患患者数は約500万人です。それは、糖尿病を持ち、明日にでも足潰瘍を発症する危険性がある患者数が約500万人存在していると言い換えてもよいと考えます。また、我が国で、糖尿病に合併しやすい末梢動脈疾患(以下PAD)患者数は約400万人と言われています。透析患者に発症しやすいPADは、国の政策の一環である「人口透析患者の下肢末梢動脈重症化予防の評価」として「下肢動脈疾患指導管理加算」により意識改革が促されましたが、未だその効果が十分に発揮されていません。我が国で最も罹患率の高い高血圧を持つ患者数は約4000万人と言われていますので、超高齢化社会を迎え動脈硬化を有す患者数は増加傾向にあることは自明の理です。増加する糖尿病、PAD、透析患者数のため、それぞれ下肢に何らかの病変を抱えた患者数が増加傾向にあり、そのことが下肢大切断(自身の体の一部を失うこと、歩行を失うこと)へとつながることの認知は国民に広く知れ渡っているとは言えないと考え、Diabetic Footのさらなる国民への啓蒙を進めていく義務が当学会にはあると考えています。
4)(Health) Insurance(保険診療):下肢創傷処置や装具装着、創傷リハビリテーションを含めた診療行為やフットケアへの保険診療点数獲得を目指す。
 下肢創傷処置には、その場の適切な診断と創傷処置が含まれます。また、実際には、靴の正しい履き方を確認し、靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、創傷を確認する作業から始める必要があります。また、適格な診断と創傷処置後に靴下を履き、靴の正しい履き方及び歩行指導に至るまでを含み、一人の患者に対して30分近くを要します。これは、足部以外の創傷処置とは量質とも全く異なるものであると認識していますが、それに見合った保険診療点数が付かなければ、足潰瘍に対する十分な創傷処置が施されない側面もあり、結果的に不十分な創傷処置が施行されかねない危険性がありますので、適切な保険診療点数を獲得することが望まれます。また、現在フットケアに関して保険収載が存在しているのは「糖尿病合併症管理料」で、フットケアを含めた患者指導を30分施行することが義務付けられています。その専任看護師は、糖尿病足病変の指導に係る適切な研修を修了したものに限られています。それは、糖尿病重症化予防(フットケア)研修を行っている学会が主催する16時間以上の研修であることが条件ですので、この研修は(旧)日本下肢救済・足病学会において施行されており、当学会においても継続していかなければなりません。しかし、まず、糖尿病患者に限り算定されていることが不十分と考えています。重症下肢虚血や静脈うっ滞性潰瘍、膠原病性潰瘍の患者には適応されていません。また、当学会のフットケア指導士や認定師に認められている加算ではありませんので、何らかの見直しが必要で両者の特典があってしかるべきと考えます。これらの普及は、超高齢化社会を迎え、在宅医療や介護の現場にも反映されるべきであると考えます。わたしたちが抱えている下肢と足の疾患は大病院や専門病院のみで予防・治療がされている現状を変えていかなければなりません。
さらに、装具装着に関してもロッカーソールサンダルなどの創傷用の装具や必要なフットウェア等、さらには後述する下肢慢性創傷に対する早期リハビリテーションへの適切な保険収載も、患者の歩行を守り生活を護ることに繋がりますので、我が国が掲げる「健康寿命促進」の担い手となると確信しています。
5)Ambulatory and Amputation Zero(歩行と下肢切断ゼロ):患者の歩行を守り、あらゆる下肢切断をなくす。
 患者本来の歩行を守ることは人間の尊厳に近いものと考えます。ところが、下肢切断術を施行せざるを得ない患者数が減少したデータは現在のところ我が国には未だありません。また、大切断回避が生命予後を改善するデータもありません。そのような中で、わたしたちのデータ(辻依子、寺師浩人:歩行機能温存のための足趾・足部切断の工夫.日本下肢救済・足病学会誌、4:31-36、2012.)では、糖尿病やPADが原因の創傷に対する下肢切断術後のADLの変化において、足趾切断や横断的中足骨切断レベルで9割近い歩行維持率があるのに対して、下腿切断と大腿切断レベルでそれぞれ33%、0%という惨憺たる結果です。また、年齢別でも65歳以上の高齢者での大切断術後の歩行維持率は約10%でしたが、踵を残すまでのレベルの切断術後では年齢を問わず歩行維持率が90%を越えていました。これは、できる限り下肢の長さを保つことで、患者の歩行が維持可能であることを示しています。また、残念なことに、PADを持つ患者において、創傷を発症し一旦重症下肢虚血に至ると、初診時すでに歩行を失ってしまった患者が4人に1人近くおられることも事実です。これはPADを持つ患者群では、すでに創傷を持つ以前から歩行機能が失われつつある病態であると言えますので、糖尿病内科、循環器内科、透析科などの内科的な課題であることは明白です。創傷を持つ患者の歩行を守ることは人口に膾炙してきていますが、それに至らないPAD患者の歩行維持には一般に目を向けられていないのが現状です。それには、Fontaine分類のⅠ度(冷感)Ⅱ度(間欠性跛行)に対する広く医療者への意識改革と国民への啓蒙(広報活動)が必要で、このことは当学会の責務と考えています。まさに、病気が潜在化する前に予防する“先制医療”の重要性が問われています。
6)Translational Research(橋渡し研究):臨床に即した基礎研究を推進します。
 橋渡し研究は、基礎研究の成果の中から有望な知見を選び、医薬品や医療機器開発に要する臨床研究に至るまでの工程を一体的に捉えた開発戦略を策定することにより、効率的かつ効果的に医療としての実用化につなげることを目的とします。当学会における橋渡し研究とはどのようなものがあるのでしょうか?
当学会は、現時点では多職種、多科の集まる烏合の衆です。それぞれの職種や科においては多くの基礎・臨床研究が独自の分野でありますが、当学会における独自の研究は未だありません。しかし、当学会ならではの横断的研究ができる蓋然性は他の学会よりも高いと考えています。それには目的を統一してそのための多職種・多科研究が施行されるべきです。例えば、目的を「歩行維持」として、多くの職種が参入することにより介入研究が叶います。また例えば、目的が「ある新規デバイスの血管内治療の血流改善」であったとしても、そこにリハビリテーション職介入の有無で結果が変わる可能性もあります。これは、他の学会にない烏合の衆である当学会の強みでもあります。臨床結果に繋がる研究促進も当学会の担う戦略の一つに加えたいと考えています。是非とも当学会ならではの横断的研究を推進していきたいと思います。
7)Rehabilitation for Gait(歩行のためのリハビリテーション):創傷発生予防と創傷治癒促進のためのリハビリテーションを推進する。
 (旧)日本下肢救済・足病学会では、サテライト研究会として「下肢慢性創傷の予防・リハビリテーション研究会」がありました。その目的は、「理学療法士、義肢装具士、作業療法士が医師の指示のもと、緊密な連携をもち、下肢慢性創傷患者の創傷治癒、予防への貢献に加え、その病態と治療の過程で発生する心身機能低下や生活機能低下の改善、および社会参加のための介入手法を確立するべく、知識・技術の発展に寄与し、教育・啓蒙活動を行うこと」でした。当研究会は、これまで2015年から(旧)日本下肢救済・足病学会学術集会会期中、毎年開催されてきました。現在までの成果は、厚生労働行政推進調査事業費補助金(いわゆる厚労科研;大浦研究班“骨太研究”)の一環として「足病治療の目的“起立、歩行”の支援のための連携~リハビリテーションの早期介入~」を多施設で研究してきました。具体的には、「入院中にリハビリテーションを行った下肢慢性創傷患者の歩行再獲得、創傷治癒、自宅復帰に関する検討」と「早期リハ関与による下肢創傷患者の入院期間短縮と歩行率向上による医療費削減を目的とした前向き研究」で、現在進行中です。これは、下肢慢性創傷患者への適切な早期のリハビリテーション関与が、創傷治癒に悪影響を及ぼさず、歩行再獲得と自宅復帰を促進させるもので、将来的に医療費削減にも繋がる内容と考えています。4)(Health) Insurance(保険診療)項目でも述べましたように、下肢慢性創傷に対する早期リハビリテーションへの適切な保険収載を目指し、我が国が掲げる「健康寿命促進」の旗手を担うべく、当学会でも引き続き同研究会をサテライト研究会として存続させたいと思います。リハビリテーション介入職である理学療法士、義肢装具士、作業療法士のそれぞれの協会と積極的かつ緊密な関わりを持ち、当学会を通じて患者の歩行と生活の維持向上に寄与したいと考えています。
8)Foot care and Footwear for the Yellows(東洋人向けのフットケア):東洋人へ向けての幅広いフットケアとフットウェアの普及活動を推進します。
 (旧)日本フットケア学会が主導的立場で推進してきたお陰で、フットケアという言葉は日本社会に広く流布し大きな社会貢献がありました。しかし、東洋(アジア諸国)を見渡してみると、まだまだ靴分化を持たないばかりか裸足、スリッパ履きです。我が国が醸成してきたフットケア文化を海外特にアジア諸国に輸出し指導していく時期にあると考えています。国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、日本を含む西太平洋地区には約1億3,200万人(成人の有病率は8.0%)の糖尿病有病者がいます。糖尿病は世界のどこよりも急速にアジア地域で広がっており、世界の糖尿病有病者の3分の1はこの地域に集中しています。インスリン分泌能力を比較したデータによると、アジア人は米国白人に比べるとインスリン分泌が半分程度で、アジア人のインスリン分泌能力は弱いのが特徴です。脂肪とカロリーが高い欧米式の食事、運動不足、遺伝的背景が、アジア人における糖尿病患者の増加の重要な因子ですが、適切なフットケアと適切な履物がない運動推進は足潰瘍を誘発させるばかりですので、糖尿病学会のみが発信している情報では、結果的にアジアでの糖尿病患者増加に伴い糖尿病性足病変患者増加を招くのみに終結してしまうことが危惧されます。きめ細かい日本のフットケア技術は、爆発的に増加しているアジアにおける糖尿病患者の足を救うことにきっと寄与するはずです。糖尿病増加の発信は常に足病変増加とセットでなければならず、その予防のためのフットケアとフットウェア推進は当学会の役目だと確信し普及活動を支援します。
また、子供の靴改革も必要だと考えています。それは、日本人に多い外反偏平足は学童期前からスタートするのではないか、足が成長する大切な期間に履きやすい脱げやすいズック靴でよいか等の検証です。西洋社会では、小児期より正しい靴を履く教育が存在していますが、我が国にはそのような文化はありません。その検証のためには、小学校の時期の足の骨格の変化(足幅、足高、アーチ高の計測などの経時的変化)の研究から始める息の長い計画で、学校法人や靴製作会社との理解と連携を必要とします。

上記8つの項目から成るPODIATRY Projectを新理事長の所信表明として掲げ、2年の任期中にできる限り推進してまいります。会員皆様の御協力を宜しくお願いいたします。

2019年9月吉日
日本フットケア・足病医学会 理事長
寺師浩人

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